夫は、そのまま家から車で20分ぐらいのところにある大きな病院に夜10時過ぎに救急搬送された。本来なら、私も付き添わなければならないのだが、私自身も熱が38度あったので、家ですぐ連絡が取れるように待機していてくださいと言われ連絡を待った。
次の朝早く、CT検査やら脳波やらの検査をすると連絡が来た。他に髄膜炎の可能性もあるので、次の日も入院して検査するということになった。
その後、お昼近くになって夫、本人が普通に電話してきた。声はいつも通り至って元気。医者から説明された検査結果や今後の検査予定などについても、私が医師から聞いた通り、説明することができていた。
「昨日のこと、覚えてる?」私は聞いた。「病院にどうやって来たかは、全然覚えていない。」という。
「おととい、秩父に行って泊まって帰ってきたのは覚えてる?」と、確認のため前日、すっかり抜け落ちていた記憶について質問してみた。
「ああ、行ったよね。帰りに神社に行って御朱印帳をもらって来たよね。」と、前日、すっかり忘れていたことは蘇っていた。「昨日は、何度説明しても、覚えていないって言ってたよね。」
「それは、全然覚えていない。」と言う。
記憶が失くなるまでの記憶は、戻ったようだが、おかしかった時のやりとりは、全く覚えていないようだ。
何だったんだろう? 何かに取り憑かれてしまったとしか、考えられない。
その後、夫は全ての検査を終え、とりあえず退院した。1週間後、医師からの検査結果の説明を聞くため、二人で病院に行った。
診断は、原因不明の「一過性全健忘」であるとのことだった。
脳波も異常なし、脳梗塞、脳出血などの問題もなし、少し脳の血流が悪くなっていたようだが、大きな問題はないとのことだった。
「一過性全健忘」とは一時的に記憶障害が起こる病気で、はっきりした原因は分からず、発症率は年間10万人あたり3人から8人くらいだそう。中高年に起こることが多く、24時間以内には通常回復し、再発も稀だそうだ。(以下に夫と全く同じ症例が書いてあったのでリンクを添付しておきました。)
夫は、もうこの暑さの中、何事もなかったように会社に出社している。
一時は、夫の認知症介護も始まるのではないかと覚悟していたが、ひとまず、もとに戻り、安心した。如何せん、原因は全くわかっていないので、何をどう気を付ければよいのか、全くわかっていない。
わかったことは、日ごろ元気でも、何が突然起こるかわからない。母が認知症なので、脳の老化予防に関しては、気にかけているつもりだが、予想もできないことが人生には起こるものだ。
あの夜は、まさに狐につままれたような出来事だった。