Arabicabeans’s diary

認知症の母とMCIの父の介護記録

今回は、私の負けだわ

前回のブログでもご紹介したが、母は訪ねてきた人には、とにかく、何でもよいからお土産を持たせようとする。


認知症になる前は、さすがに持たせるものも、いただき物のお菓子など、人がもらっても困らないものをそれなりに渡していた。


しかし、最近ではお土産として渡してもいいものかどうかの判断ができなくなっているので、とにかく、何でも冷蔵庫から出して、人に持たせようとする。

 

父が毎食のデザートに楽しみにとってあるいちごヨーグルトや、私がおかずの足しにとパルシステムで頼んでおいた冷凍食品の唐揚げ、オムライスや、トマトやきゅうりなどの生鮮食品。要冷蔵、要冷凍にかかわらず、何でもお土産の候補になる。

 

この前は、母が処方されている漢方薬といった変わり種もお土産の候補になっていた。

「これを寝る前に飲むといいわよ。」と言って。自分もきちんと飲めていないくせに、人に勧めるんじゃない!

 

そのお土産行動は、娘の私に対しても同様である。いや、むしろ是が非でも何か持たせたいという熱量はさらに増し、他人に対してよりも、もっと強引に押してくる。荷物が重くて、持って行けない。とか、そんな冷凍品を遠距離で持っていけない。と断っても、記憶には留められないので、何百回と言ってくる。(私には、それぐらいに感じる。)というか、有無を言わさず、気がつくと既に私のかばんの中をお土産で埋め尽くしてる。

 
認知症サポーターの叔母なら、認知症患者の申し出を無にしたら可愛そうだと考え、持ち帰ってくれるのかもしれない。が、私は、毎回帰る際にどうでもいいものを持ち帰れと強要されるのが、非常に鬱陶しい。
 
 
母ががっかりしようが、怒りだそうが、3時間かけてそんなものを意地でも持って行ってやるかと言う気持ちで、そこは容赦なく突っぱねる。普段は、できるだけ認知症が進行しないようにと散歩に連れて行ったり、栄養のよいものを食べさせたりと考え、サポートしてあげたいとは思っている。しかし、この母のお土産行動に関しては、どうも寛容に考えてあげることができない。母のお土産を持って帰ってしまったら、自分が負けてしまったぐらいの悔しい気持ちになる。ある種、母との戦いであるかのように思っている。

 

私は、両親宅から帰る直前は、台所の掃除や部屋の片付けなど、やることを早く済ませてできるだけ早く帰りたいと焦っている。そんな状況を知ってか知らずか、母は私が帰ることを察知すると、お土産セットを詰める作業をし始める。冷蔵庫を開け、何を持たせようかと物色している。

 

私は、「やばい、また始まった!」と、思いつつも横目で眺めながら、しばらく放って置く。

 
以前は、私はそれを目にするやいなや止めさせ、冷食やヨーグルトをもとに戻していた。が、それをその場でやったところで、また数分後には同じことをされるので、堂々巡り。かえって自分が疲れてしまう。しかも、早く帰りたいのに、それに時間がとられてしまい、帰る時間が却って遅くなってしまう。
 
 
しかも、母はせっかく詰め終わったお土産セットが目の前で解体され、冷蔵庫に戻されると、かなり怒り出す。できれば、母がお土産を用意する間もなく、風のように去ってしまったと思わせたほうが、母もあきらめ、スムーズに帰ることができる。
 
 
そのため、私も帰る1時間前から、自分の仕事の段取りを組んで、自身の仕事を終わらせ、且つ、家を出る直前、母が私のかばんに入れたバナナだの、ヨーグルトだの、冷凍餃子だのを袋に入れたお土産セットを母が目を離した瞬間に解体し、全てを冷蔵庫に戻すことを毎回の目標として動いている。
 
 
そして、「それじゃ、また来るね!」と言って、母に再度、お土産セットを作り出す間を与えず、風のように去っていく。
 
 
そして、注意するべき点は、完璧にわかりにくい場所に隠して戻さないと、下手するとバナナを持って、道路まで足を引きずりながら追いかけてくる。いつも、杖をつきながら、足が痛くて歩けないと言っている母が。
 
 
母が新たにお土産セットを作ろうとあたふたしている間に、うまいタイミングで家を出てくることができれば、何かバトルに勝利したような清々しい気持ちで駅に向かうことができる。
 
 
昨日も、私は全て用を済ませたあと、母が私のかばんの中に詰め終えたお土産を母がトイレに行っている隙を見計らって、素早く冷凍庫に戻し、母が戻ってくるやいなや、「じゃ、帰るね。」と言い、すぐに家を出ようとした。
 
 
母は、もちろん、自分ではお土産を詰めておいたことも覚えておらず、「お土産がないじゃない。」と言って、急いで冷蔵庫にかけ寄っていく。私は、また「大丈夫。また、来るね!」と言って、母が追いかけて来ないことを確かめながら、門を出て、すぐに角を曲がり、隣家の塀に身を隠しながら逃げるように走り去った。
 
しめしめ、今日もうまい具合に母の作ったお土産セットを戻し、スムーズに家を出られた。と、すっきりした気持ちで家まで帰っていった。
 
 
3時間かかって家に到着し、自分の洗濯物など早速洗ってしまおうと、使ったタオルをかばんから取り出そうとした。その瞬間、何か冷たいものが入っていることに気づいた。それを見たとたん、「やられた!」私は思った!
 
 
次に行った時にすぐ料理にとりかかれるように冷凍庫にストックしておいた豚ロース薄切りがちょうどよく解凍された状態で、かばんの底に入っていたのだ。
 
 
私は、その瞬間、負けた!と、思った。私は、母の作ったお土産セットを全部解体して、戻しておいたと思っていたが、母は、その前にもすでに生肉を私のかばんに忍ばせていたのだ。
 
 
私は、何とも言えない敗北感を感じた。
 
 
いつものように完璧に段取りを考えて、いつものように母のお土産セットを完璧に解体し、何一つ手抜かりなく、実家を出たつもりであった。
 
 
悔しいが、今回の母との戦いは、負けを認めざるをえない。